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大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)22号 判決

控訴人(原告) 中島六兵衛

被控訴人(被告) 東山税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し昭和四四年四月二八日付でなした

(1) 控訴人の昭和四〇年分所得税についての決定処分及び重加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも裁決による一部取消後のものをいう。)のうち、総所得金額について金六六一万〇二七三円、重加算税額について金八一万五六〇〇円をそれぞれ超える部分

(2) 控訴人の昭和四一年分所得税についての決定処分及び重加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも裁決による一部取消後のものをいう。)

をいずれも取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

二  当事者の主張

次に、控訴人の当審主張を付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の韓学教に対する金員の貸与は昭和三二年ころに始まり、昭和三八年以降は一方的に貸与するだけで、昭和四〇年には一五回にわたり合計一二三九万三〇〇〇円を、昭和四一年には一〇回にわたり合計一七八六万三〇〇〇円を順次追加貸しして昭和四二年後半に至つたものであるが、その間同人から返済を受けたものは極めて稀で、それすらも間もなくして再び貸与しており、そのほとんどは返済期日が到来しても同人に返済資金がないため延期を繰り返していたものである。

本訴では、右延期時の利息収入が問題となつているのであるが、控訴人は右貸付に際し韓から約束手形を受け取つており、同人の安易な返済延期の要請を牽制するため右手形を銀行取立に回していたのであつて、同人から延期の要請があると、その方法として手形金額に見合う現金を同人の代理人である久保喜野に交付して右手形を決済させる形式を採るに至つたが、その際、時には韓が端数の金額を用意することがあつても、その実質は返済期日の延期にほかならず、これによつて貸金の元利金が支払われたものとは控訴人はもとより韓も認識していなかつた。したがつて、韓の振出手形が控訴人の取引銀行を通じて取立に回り、これが銀行で決済されて元利金の返済がなされた形式になつていても、現実には控訴人が貸金の返済を受けたり、利息収入があつたわけではない。前記二五回の新規貸付と異なり、控訴人が実質延期であると主張する分についての新手形の授受は旧手形の満期日の前後にこれと接着して行われており、その実質が返済の延期であることを如実に現わしている。

右延期を手形貸付とみることは、韓に返済資金がなかつたということと、新旧手形の密接な関係を無視する形式的な判断であり、新手形交付時に現実に現金が交付されているのは、控訴人が韓の振出手形を銀行取立に回していたことから、手形金額に見合う現金を同人に預けて右手形を決済させる方法で延期させたものにすぎず、現金交付の一事をもつて新規の貸付と断定することはできない。

これを要するに、新手形と旧手形との間に特段の関連性がない場合は格別、本件において右両手形に特別な関係があるのであつて、新手形の交付をもつて新規の貸付ということはできず、その実体は延期にほかならないものというべきである。実質的に元金の返済も利息の支払もない延期であるにもかかわらず、手形の銀行決済という形式面を捉え右決済により現実に利息収入があつたとしてこれを課税の対象とすることは、実質課税の原則に反するものであつて違法というべきである。

2  控訴人と韓との間で裁判上の和解が成立したのは昭和四三年一月であるが、右和解は利息制限法超過利息については、これが本来無効であるためこれを確認したものにすぎず、したがつて、右制限超過利息は昭和四〇年と昭和四一年に遡つて無効となるものであつて、これを昭和四三年の経費に計上すべきものでない。これを昭和四三年の経費に計上することは制限超過利息をその発生年である昭和四〇年と昭和四一年について「ひとまずは課税の対象となる」とした最高裁判所昭和四六年一一月九日第三小法廷判決に抵触する。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は原判決理由説示と同じ(ただし、原判決三三枚目表八行目の「支払手形の期日の二日前」を「支払手形の満期の二日後(不渡処分猶予期間内)」と、同裏三行目及び同九行目の各「支払手形の期日の前日」をいずれも「支払手形の満期の翌日(不渡処分猶予期間内)」と各訂正する。)であるから、これを引用する。控訴人の当審各主張は、同人の原審主張を敷衍し縷説するにすぎないもので、実質的に右主張を超えるものでないから、これに対する判断も原判決の理由説示をもつて十分というべきである。結局、控訴人の当審における主張立証をもつてしても、当裁判所の前記判断を左右しない。

二  よつて、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 高田政彦 辻忠雄)

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